この記事の結論
- 災害・盗難・横領で受けた損害は、所得から差し引ける(雑損控除)
- 引ききれない分は3年くり越せる。所得制限もない
- 損害が大きいときは災害減免法のほうが有利なことも。選べるのは片方だけ
台風で家が壊れた。その損害は、税金から引ける
火災、台風、水害、地震、雪害。それから空き巣にあったとき。 こうした損害は所得から差し引けます。 医療費控除やふるさと納税と同じ「所得控除」の一種で、 雑損控除といいます。
使う人が少ないのは、知られていないことに加えて、被災した直後に税金の話を考える余裕がないからです。 ただ、この控除は5年前までさかのぼって申告できます。 過去に被害にあった年があるなら、まだ間に合うかもしれません。
控除額は、2つの式の「多いほう」
| 式 | 計算 |
|---|---|
| ① 損害ベース | 差引損失額 − 総所得金額等 × 10% |
| ② 支出ベース | 差引損失額のうち災害関連支出 − 5万円 |
差引損失額は「損害金額 + 災害関連支出 − 保険金などで 補填される額」です。火災保険が下りたなら、その分は引きます。 災害関連支出とは、壊れた家の取り壊しや、土砂の撤去にかかった費用のこと。
年収500万円(総所得346万円)の人が、損害150万円・保険金50万円だった場合
654,000円
①差引損失額100万円 − 総所得346万円×10%=34.6万円 → 65.4万円が控除されます。
試算の前提
- 年収500万円・給与所得控除後の総所得346万円のモデルケース
- 損害金額150万円、火災保険からの保険金50万円
- 災害関連支出(取り壊し・撤去費用)は無いものとして計算
- 所得税率10%なら、戻る税金は約6.5万円+住民税の軽減
損害額がそのまま返ってくるわけではありません。所得の10%を超えた部分が、税金の計算から外れる仕組みです。
引ききれなければ、3年くり越せる
損害が大きくて、その年の所得から引ききれないことがあります。 その場合は翌年以降3年間くり越して、 各年の所得から差し引けます。
東日本大震災や、特定非常災害に指定された災害(令和5年4月以降)は5年間です。生活の立て直しに時間がかかることを 前提にした期間になっています。
対象になるのは、生活に必要な資産
自宅、家の中の家財、通勤に使っている車。 暮らしを成り立たせるために要るものが対象です。 逆にいうと、無くても暮らせるものは外れます。
対象にならないもの
| 外れる理由 | |
|---|---|
| 詐欺・恐喝による被害 | 災害・盗難・横領にあたらない |
| 別荘 | 生活に通常必要でない資産 |
| 1個30万円超の貴金属・書画骨董 | 同上 |
| 事業用の資産・棚卸資産 | 事業の経費として処理する |
いちばん引っかかるのが詐欺と恐喝です。 オレオレ詐欺や投資詐欺で失ったお金は、この控除では救われません。 対象は「災害・盗難・横領」の3つだけです。
自分の資産だけでなく、生計を同じくする配偶者や親族(所得が一定以下の人) が持っている家財も対象になります。同居の家族の分も合わせて数えられます。
災害減免法という、もうひとつの道
損害が大きいときは、災害減免法のほうが有利なことがあります。 こちらは所得控除ではなく、所得税そのものを減らす・免除する制度です。
| その年の所得 | 所得税の扱い |
|---|---|
| 500万円以下 | 全額免除 |
| 500万円超〜750万円以下 | 2分の1を軽減 |
| 750万円超〜1,000万円以下 | 4分の1を軽減 |
条件は2つ。損害額が住宅・家財の価額の2分の1以上であることと、 その年の所得が1,000万円以下であることです。
どちらを選ぶか
| 雑損控除 | 災害減免法 | |
|---|---|---|
| 対象 | 災害・盗難・横領 | 災害のみ |
| 所得の制限 | なし | 1,000万円以下 |
| 損害の程度 | 問わない | 住宅・家財の2分の1以上 |
| くり越し | 3年(特定非常災害は5年) | なし(その年だけ) |
| 住民税 | 軽くなる | 軽くならない |
選べるのは片方だけです。損害が甚大でその年だけの話なら 災害減免法、損害が続く・所得が高い・住民税も軽くしたいなら雑損控除、 というのが大まかな分かれ目になります。
判断に迷うところですし、金額も大きくなりがちです。 確定申告の前に、税務署か税理士に両方で試算してもらうことを勧めます。あとから有利なほうへ変えることもできます(更正の請求・修正申告)。
申告に要るもの
| 書類 | どこで手に入るか |
|---|---|
| り災証明書・被害届の受理証明 | 市区町村の窓口・警察 |
| 取り壊しや撤去の領収書 | 工事をした業者 |
| 保険金の支払い通知 | 加入している損害保険会社 |
| 源泉徴収票 | 勤務先 |
損害額そのものは、被害を受ける直前の時価をもとに計算します。 国税庁が「損失額の合理的な計算方法」という簡便な方式も示していて、1点ずつ値段を出さなくても、家族の人数と住宅の面積から 概算できます。領収書が残っていないものが多いはずなので、 ここは現実的な方法が用意されています。
普段から使える制度も、確かめておく
雑損控除は、できれば使わずに済ませたい制度です。 一方で、申請しないと受け取れないお金は、平時にもたくさんあります。 制度診断で、いま自分が使えるものをまとめて確かめられます。